たとえば、開店前の店を想像してみてほしい。
テーブルを拭いた。備品もそろえた。準備の項目には、ひと通りチェックがついている。

では、そのまま最初のお客さまを迎えられるだろうか。
僕は、最後にもう一つだけ確かめたい。
「今、ここに座った人は、気持ちよく食事を始められるか」。

飲食店の開店準備は、毎日ある仕事だ。
だからこそ、昨日と同じように手を動かしているうちに、作業を終えること自体が目的になってしまうこともある。
僕が大事にしたいのは、その先にある、お客さまの時間である。

セプテンマリア代表の真部裕充だ。
今日は、毎日の開店作業を「お迎えの準備」にするための、僕なりの考え方を書いてみたい。

飲食店の開店準備は、「終わった」の中身をそろえる

もちろん、衛生や安全、店で決めた準備を省いていい、という話ではない。
そこは土台だ。その土台の上で、何をもって準備完了とするかを考えたい。

たとえば、テーブルにメニューを置く仕事。
置き終えれば、作業としては完了になる。
でも、初めて座る人から見て、どこにあるか分かるだろうか。手に取りやすいだろうか。

「置いたか」と「使いやすいか」。
似ているようで、見ているところが違う。

スタッフが作業を終えた状態と、お客さまが使える状態。
この二つを近づけていくのが、僕の考える開店準備だ。
チェックをつける手を止めて、一度、お客さまの側から見直してみる。

僕が舞台づくりで面白いと思ったこと

僕には、仲間と舞台をつくった経験がある。
うまくできずに悔しい思いもした。それでも本番を迎え、自分たちの表現に観客が反応してくれることに、大きな喜びを感じた。

人と何かを本気でつくり、誰かと時間を共有する。
その面白さを仕事にしたいと思ったことが、外食を選ぶ原点の一つになっている。

この原点から店の準備を考えると、見方が少し変わる。
お皿やメニューを並べたところで、僕たちの届けたい時間が完成するわけではない。
そこにお客さまが来て、食べて、話して、過ごしてくださる。

だから、開店前にも想像したいのだ。
準備したものが、相手の手に渡ったらどうなるか。
裏側で頑張ったことが、気持ちよく過ごせる時間につながっているか。

最初の一組を、頭の中で迎えてみる

試すなら、難しいことを増やすより、来店から最初の注文までを思い浮かべてみたい。
勤務時間の中で、必要な準備と合わせて確かめる、という提案だ。

まず、入口に立つ。
初めて来た人は、どこで待てばよいか分かるだろうか。
店の中を知っている僕たちには当たり前でも、初めての人には分からないことがある。

次に、席を見る。
案内されて座るところを想像する。荷物があり、上着があり、一緒に来た人がいる。
通路や席まわりに、片づけたつもりの物が残っていないだろうか。

そして、最初の注文。
メニューを見て、選んで、注文する。
その流れのどこかで、お客さまが迷いそうなら、何を整えればよいかを考える。

たとえば、メニューが別の備品の下に隠れていたら、店の決まりに沿って置き直す。
案内の方法に迷いがあれば、責任者と確かめる。
大がかりな変更をしなくても、確認できることはある。

ここで欲張って、店中の課題を一度に解決しようとはしない。
今日のお迎えで困りそうなことを、一つ見つける。
まずは、その一つを整えたい。

準備の時間をつくるのも、会社の仕事だ

ただし、この話を「気づいた人が、さらに頑張る」で終わらせたくない。
それでは、準備の仕事が際限なく増えてしまう。

必要な作業が、予定した勤務時間に収まるのか。
同じ確認を何人も重ねていないか。
いつも最後に残る作業があるなら、順番や必要な時間を見直せないか。

僕が会社をつくる側として考えたいのは、こうした準備の組み立てである。
個人の早出や、終わりのない気づかいを前提にしたくない。
準備が間に合わないなら、何が足りなかったかを、作業の中身から見ていきたい。

「いい店にしよう」と言うなら、迎える側にも準備できる時間が必要だ。
その時間をどうつくるかまで、僕は考えていたい。

今日の準備で、一つだけ変えるなら

次の営業前、あなたなら何を確かめるだろう。
すべてを見直さなくてもいい。
自分が初めてのお客さまだったら、少し迷いそうなところを一つ探してみてほしい。

見つけたら、店の決まりの中で整える。判断に迷うことは、責任者に相談する。
営業後には、その準備で足りたかを振り返る。
やることを増やすだけでなく、繰り返さなくてよい手間がなかったかも見てみたい。

僕は、お客さまが店に来てくださる時間を、大事にしたい。
その思いを、看板の言葉だけにせず、開店前の小さな準備にも置いておきたいのだ。

「準備は終わりました」。
そのひと言の中に、最初のお客さまを迎える場面まで入っている。
そんな店を、仲間とつくっていきたい。

営業が始まってから、相手に合わせてどう接するか。
その先の話は、前回の「飲食店の接客をよくしたい。だったら、社長の僕が先に考えること」に書いた。
開店前の準備と、営業中の接客。続けて読んでもらえたらうれしい。