こんにちは、セプテンマリアの代表、真部裕充です。

常連さんとの親しさを大切にしながら、初めて来た人も入りやすい店にしたい。接客の距離感を考えるとき、会話の楽しさだけでなく、その外にいるお客さまへ目を向けたいと思う。

たとえば、こんな店を想像してみてほしい。スタッフと常連さんが、楽しそうに話している。お互いのことを知っていて、会話も弾む。その隣に、初めて来たお客さまが座っている。

その人は注文のことで聞きたいことがある。でも、話が続いていて声をかけにくい。スタッフは誰かを困らせようとしていない。それでも、輪の外にいる人には、店が少し遠く感じられるかもしれない。

これは実際のお客さまの声ではなく、説明のための場面だ。今日は、そんなときに僕たちが何を見ていたいかを考えたい。

会話の輪の外にも、お客さまがいる

僕は、人とのふれあいがある店をつくりたい。顔を覚え、挨拶を交わし、また来てくれたことを喜べる。居酒屋の仕事には、そのうれしさがあると思っている。

だから、常連さんとの会話をなくしたいわけではない。大切にしたいのは、その親しさが、ほかの人にとっても入りやすい空気になっているか、ということだ。

よく知っている相手とは、話題を探さなくても話せる。笑顔も出る。そこで会話が続くほど、こちらは店全体を見ているつもりになりやすい。けれど、目の前の一人を見ている時間と、ほかの席を見ている時間は同じではない。

先ほどの例なら、聞きたいことがある人は、会話の外にいる。その人が声を出すまで待っていると、困りごとに気づく入口を、お客さまだけに任せてしまう。

接客の距離感は、仲の良さだけで決めない

常連さんだから長く話す。初めての人だから決まった案内だけをする。そんなふうに、相手との付き合いの長さだけで接客を決めたくない。

見たいのは、その人がいま何を必要としているかだ。いつものお客さまでも、今日は連れの人とゆっくり話したいかもしれない。初めての人でも、料理について少し聞いてから選びたいかもしれない。

ただし、表情を見れば全部わかる、とは思わない。こちらの想像は外れることもある。周りを見回している人がいたら、「何かお手伝いできることはありますか」と短く聞いてみる。違ったら、そこで引けばいい。

話を広げることもできるし、相手の時間に戻すこともできる。その両方を選べる接客でありたい。会話が続かなかったから失敗、とは考えなくていいと思う。

楽しい会話から、仕事へ戻るひと言

では、常連さんとの話が弾んでいるとき、どうするか。無言で立ち去る必要も、ずっと話し続ける必要もない。

たとえば、「少しほかのお席を見てきますね」と伝えて、いったん離れる。これは言い方の一例だ。その場の話を大切にしながら、自分には店全体への仕事もあると伝えられる。

戻って見たいのは、誰が楽しそうかだけではない。呼ぼうとしている人はいないか。案内を待っている人はいないか。初めて来た人が、次にどうすればよいかわからず止まっていないか。

一つ気づいたら、必要な対応をする。ずっと見つめたり、すべての席に同じ会話を始めたりする話ではない。声をかけたいときに、ちゃんと届く場所にいる。その状態を大切にしたい。

社長の僕も、盛り上がりだけで店を見ない

ここは、スタッフだけに気をつけてもらう話ではない。僕自身が店を見るときの、ものさしにも関わっている。

笑い声が聞こえる。スタッフとお客さまが楽しそうだ。それはうれしい。でも、その一場面だけで「今日はいい接客だ」と決めてしまえば、声をかけにくい人を見落とすかもしれない。

静かな席にも、その人たちの時間がある。スタッフとの会話が少なくても、食事や連れの人との話を楽しめているなら、その時間を守りたい。店の元気を、全員が同じように盛り上がることと取り違えたくないのだ。

教えるときにも、「もっとお客さまと話して」だけでは足りないと思う。話しかける場面に加えて、会話を切り上げて周りを見る場面も、一緒に考えたい。親しさをつくることと、店全体に気を配ること。その両方を仕事として伝えるのは、会社の側の役割だ。

初めての人が、次も入りやすい店へ

次の営業では、会話が弾んだあとに、一度だけ輪の外を見てみよう。いま自分と話していないお客さまは、どんな様子だろう。必要なら短く声をかけ、必要がなければ、その人たちの時間をそっと続けてもらう。

僕が届けたいのは、店の仲間に入らなければ楽しめない時間ではない。よく来てくれる人にも、今日初めて扉を開けた人にも、それぞれの過ごし方がある店だ。

自分たちが楽しんでいることから、目の前の人が気持ちよく過ごせているかへ。その視線を、僕も持ち続けたい。親しさのある店を、初めての人にも開いておく。そんな店づくりをしていきたいと思う。

店でつくりたい空気については、「最高のサービスとは…」にも書いた。今回は、その思いを、常連さんとの会話の外にいる人へ目を向ける、という場面から考えてみた。